はじめに
SUUMOやHOME’Sなどエンドユーザーがアクセスできる不動産ポータルサイトが普及し、不動産屋さんに行かなくてもスマホ1つで賃貸物件を選定できる世の中になりました。
しかし、不動産ポータルサイトに掲載されている物件に問い合わせを行っても「そちらの物件はもう契約済です」と実際には物件が埋まってしまっていると言うことが多々あります。
弊社でもお客様からのリクエストで、エンドユーザー向けの不動産ポータルサイトに掲載されている物件についてお調べをすることがございますが、特にお引越し繁忙期の毎年2月〜3月は、ほとんどの物件が実際には埋まってしまっています。
なぜこのようなことが起きるのか。これは不動産業界の構造・マーケティング手法・情報の更新体制が複合的に関わっているためです。主な理由を解説していきます。
1 「おとり物件(釣り物件)」の存在
一部の業者は、反響獲得のために既に成約済み、または実際には存在しない物件をあえて掲載し続けることがあります。
問い合わせから「その物件はまだ空いていて、内覧できますよ」と来店を促し、実際に来店したタイミングで「そちらの物件は契約決まってしまったんですよね。ただ、こちらの物件なら…」と、自社の管理物件や他の紹介可能な物件に誘導するためです。
来店さえしてもらえれば実際に希望の物件が無くても営業はかけられますからね。
こちらの手法に関しては、景品表示法違反(優良誤認)や宅建業法違反にあたる場合もあり、業界全体の信頼性を損なう原因にもなっています。
弊社では「その物件の現況が実際にどうなのか」丁寧にお調べさせていただいております。
2 情報の更新ラグ
ポータルサイトに掲載される物件情報は、リアルタイムではなく、手動更新が多いためタイムラグが生じやすいという現状があります。
•成約決定 → 反映までの遅延:オーナーや元付業者からの情報提供が遅れると、空室情報が反映されないまま掲載が続いてしまいます。特に繁忙期は複数の物件が一度に成約となる場合もあり、手動更新作業が追いつかないことが多い状況です。
•多数媒体への同時管理の難しさ:複数サイトに情報を出している場合、全部をタイムリーに更新するのは現実的に難しいという点がさらにタイムラグを大きくしてしまう一因となっています。
3 レインズ非公開や業者間情報の偏り
不動産業者間で共有されている「REINS(レインズ)」に物件情報が未登録のケースや、自社独占物件(囲い込み)など、ポータルに全情報が出ていないこともあります。
不動産ポータルサイトとレインズの情報がリンクする世の中になれば情報更新のタイムラグも小さくなると思いますが、レインズに未登録の囲い込み物件が増えるとそれも難しくなってしまいますね。
4 ポータルサイト側のビジネスモデル
SUUMOやHOME’Sといったサイトは「反響課金モデル」を採用していることが多く、掲載物件の量がそのまま問い合わせ数(=収益)に直結します。
すなわち、仲介業者にとっても「目立つ物件」を掲載し続けるメリットがあります。したがって、成約済みでも、反響が多い物件を「釣り」として残しておく誘惑にかられる場合もあります。これも「釣り物件」後を絶たない理由のひとつです。
5 業界としての課題と今後
このような状況は借主は元より、物件を紹介する不動産仲介業者も確認作業に時間と手間を費やすこととなり、ひいては不動産市場の不透明感と不信感の醸成につながっています。
一朝一夕で解決する問題ではありませんが、業界内で以下のような取り組みが行われることで、透明性と公平性が保たれると考えます。
•物件情報のリアルタイム化・API連携強化
•AIによる成約情報の自動検知・自動削除
•レインズとポータルサイトの統合的なデータベース化
•倫理的な業者選定・掲載基準の厳格化